わたしは 広いバナナ畑を歩いていた。
遠く彼方にかすかに見える・・・小さな黒い二つの点が・・・見えた。 「おや? あれは・・・、何だろうか?」 暫く、ジッと見つめていると、やがてその黒い小さな点はこちらに近づいてきて、その姿を大きくはっきりと見せた!! 「し、しまった!!」 そう思う間もなく、急降下したかと思うと ズダダダダァーン! わたしが草むらに飛び込むのとほぼ同時に辺りは激しい爆撃音と閃光と煙にみまわれた。 暫くわたしは、草むらで身動きとらずに、息を整えるようにして転がっていた・・・。 あの“黒い二つの小さな点”そう見えたあの物体は、『双胴の悪魔』とのちに呼ばれるアメリカの戦闘機 ロッキードP38だった。胴体が二つあって、中央に操縦席が一つあり発動機を2基搭載した双発。 その双胴体前方から、弾丸は横一列に発射される。それを正面から見ると横真一文字に真っ赤な炎として見える。そして、発射される弾丸の何発かに1発は「曳光弾(えいこうだん)」で、それは赤く長い尾を引いていたのを憶えている。 ・・・草むらに転がってどのくらいがたっただろうか。 まだ、薄く煙の糸を吐く地面に刺さったままの弾丸の穴をわたしは見つめていた・・・。やがて起き上がって、突き刺さった弾丸をほじくり出して見ようと、近くにあった木切れで穴を掘ってみたけれども、それは地中深く深くにめり込んでいて、とうてい掘り出せはしなかった・・・。 あの日、わたしを狙った戦闘機は試しに撃ってはきたが、たった一人の民間人を仕留めるためにわざわざ引き返してはこなかった。しかし、もしもあの日、あのバナナ畑でわたしがたった一人だけではなく、もっと大勢であの場所にいたなら、あの戦闘機はきっとまた戻ってきていただろうよ。 あの頃は「わたしも、いつかは戦争で死ぬだろう・・・」と、そう漠然と感じていたし、「戦争に行くことは、男の責任」のように思っていた。 もっとたくさんの修羅場を見てきたが、わたしは死なずに終戦を迎えた。もし戦争で命を落としていたなら・・・そうしたら、今頃ここで、「あんたとあんたにこんな話はしていなかったんだろうなぁ・・・」と、 『私の父』は、Pin君と私にそう話した・・・ 私(マドレーヌ)の父は当時、台北(台湾北部)にいました。召集され、軍隊を経験し、終戦後に台北を引き揚げるまでの間の話を思い出しながら、時々、娘である私と、孫であるPin君にも話してくれます。 今日は61回目の終戦記念日。毎年、この日、父は台北帝大時代を一緒に過ごし、戦死して逝った優秀な仲間たちのことをたくさん思い起こす、と言います。 今日、父に連れ添ってPin君は、正午よりお寺で鳴らす「哀悼の鐘」をつきに出かけます。 ****************************** 「理由もなく、戦争をするのはいいことだ、どんどん戦争をしようと考えているひとはいないと思う。でも、正しい理由があれば戦争をしてもいいと考えている人は多い。相手をやっつけなければ、こっちがやっつけられてしまうから、したくないけど戦争をしているというわけだ。ぼくら人間はおおむかしからそうやって戦争をしてきた。戦争はいやだ、戦争はしたくないと思いながら。 どうしてだろう? それは人のこころのなかに、平和がないからだとぼくは思う。平和をじぶんの外につくるものだと考えると、平和をめざして戦争をするということにもなる。じぶんのこころを平和にするのはむずかしい。でも、まず始めにこう考えてみたらどうだろう? 戦争はじぶんのこころのなかから始まると。戦争をひとのせいにしないで、じぶんのせいだと考えてみる。 ひとをにくんだり、さべつしたり、むりに言うことをきかせようとしたり、じぶんのこころに戦争につながる気持ちがないかどうか。じぶんの気持ちと戦争はかんけいないと考えるかもしれないが、それでは戦争はなくならない。 まずじぶんのこころのなかで戦争をなくすこと、ぼくはそこから始めたいと思う。」 絵本『おにいちゃん、死んじゃった――イラクの子どもたちとせんそう』 詩 谷川俊太郎、絵 イラクのこどもたち~より (谷川俊太郎のあとがき) ****************** みなさま、お越しいただけて感謝です。しばらく、体調をこわしてブログが放置自転車状態になっております。ですが今日は、どうしてもカキコしたかったので、数週間前からポチポチ入力していた文を投稿させていただいております。コメントを頂いても、しばらくはお返事ができないかと思います、申しわけございません。命には別状無く療養させていただいておりますので、ご心配にはおよびません。 ほんとうに皆さまに感謝です。 マドレーヌ
by madorudo
| 2006-08-15 08:41
| 家族の話・・・いろいろ
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